2024/08/18(日)「ブルーピリオド」ほか(8月第3週のレビュー)

 災害時に使うポータブル電源を買っておこうと思い、いろいろ調べた結果、Jackery(ジャクリ)という日本メーカーの製品が良いらしいことが分かりました(すいません、アメリカのメーカーでした)。ちょうど公式サイトで45%オフのセールが始まったので買おうとしたら、購入ボタンが押せません。先日の日向灘地震に伴う南海トラフ巨大地震臨時情報の影響で注文が殺到しているようです。みんな考えることは同じなんですね。少し割高ですが、amazonで35%オフをやっていたので注文。届くのは9月下旬になるとのこと。

 amazonでは中国製のポータブル電源やソーラーパネル(に限らず多数の中国製品)が販売されていてレビューも良いんですが、サクラチェッカーで調べると、ほとんどが偽のレビュー(さくら)と判定されます。明らかな詐欺製品は言うに及ばず、一見まともな粗悪製品もありますから注意が必要です。

「ブルーピリオド」

 YOASOBIの名曲「群青」は「ブルーピリオド」の原作コミック(山口つばさ)にインスパイアされたものだそうです。映画を見た後に聴くと、Ayaseが書いた詞は物語のエッセンスをうまく掬い上げていることが分かります。映画は好きなものに打ち込む青春を描いて「線は、僕を描く」(2022年、小泉徳宏監督)、「ルックバック」に連なる「アート系スポ根」の傑作だと思います。

 高校2年の矢口八虎(眞栄田郷敦)は毎夜、渋谷の街に繰り出していたが、成績は優秀。一方で空虚さも抱えていた。ある日、美術室で一枚の絵に出合う。それは3年の森まる(桜田ひより)が描いた緑色の天使の絵だった。八虎はそれに影響を受けて、夜明けの青く見える渋谷を描いてみた。美術に興味を持った八虎は進学先を東京藝大に変え、合格を目指す。

 かつては社長と言われた父親(“ずん”のやす)は今、昼間より高い賃金が得られる夜勤の仕事に就き、母親(石田ひかり)はパートで働いていて、八虎を私立大に行かせる余裕はありません。成績優秀な八虎に安定した仕事に就けるような将来を望む母親は「絵は趣味にしておけばいいじゃない」と国立の藝大進学にも反対します。疲れ切った母親がテーブルに突っ伏して寝ている姿を八虎がスケッチするシーンがしみじみと良く、ここで母親は息子の絵に対する本気度を初めて理解します。

 映画には競争倍率の高い東京藝大受験に失敗する若者も多数描かれます。自分の好きな道に進むことの困難と大変さもしっかり描くことで、この映画は逆にそうした現実と夢の間で悩む若者の背中を押す効果も持ち得ているでしょう。

 眞栄田郷敦はサキソフォンでプロを目指して実際に東京藝大を受験(不合格)した経験があるそうで、この役にぴったりのキャスティング。萩原健太郎監督は前作「サヨナラまでの30分」(2020年)で新田真剣佑を主演にしていましたから、2作続けて俳優兄弟を起用したことになります。
▼観客11人(公開4日目の午前)1時間55分。

「メイ・ディセンバー ゆれる真実」

 1996年に実際に起きた13歳の少年と36歳の女性のスキャンダル“メイ・ディセンバー事件”を基にしたトッド・ヘインズ監督作品。実際の事件では教師と生徒の関係でしたが、映画は大きく脚色していて、事件をなぞるのではなく、年の離れた男女のその後と、そこに入ってきた女優の姿を描いています。

 主演はヘインズ監督の「エデンより彼方に」(2002年)などでも主演したジュリアン・ムーアと、「ブラック・スワン」(2010年、ダーレン・アロノフスキー監督)を思わせる役柄のナタリー・ポートマン。事件が映画化されることになり、役のリサーチのためにグレイシー(ムーア)とジョー(チャールズ・メルトン)夫婦のもとを訪れる女優のエリザベス(ポートマン)は次第に夫婦に、特にグレイシーに影響されていきます。「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」とのニーチェの言葉のような状態に陥っていくわけです。ポートマンは43歳ですが、相変わらず魅力的です。

 ポートマンはサミー・バーチの脚本を読んで惚れ込み、ヘインズ監督に脚本を送ったそうです。ヘインズはイングマール・ベルイマンの傑作「仮面 ペルソナ」(1966年)を想起したそうですが、完成した映画はベルイマン作品ほど難解ではありません。ただ、一般観客に分かりやすい展開でもなく、そこが評論家の評価との乖離に現れているようです。
IMDb6.8、メタスコア86点、ロッテントマト91%。アカデミー脚本賞ノミネート。
▼観客10人(公開7日目の午後)1時間57分。

「フォールガイ」

 フィル・コリンズの大ヒット曲「Against All Odds」(1984年、日本語タイトル「見つめて欲しい」)をカラオケでエミリー・ブラントが歌うシーンにぐっときました。いや、シーンが良かったからではなく、歌が懐かしかったんです。この歌、「カリブの熱い夜」(1984年、テイラー・ハックフォード監督)でも使われました。というか、Wikipediaによると、当初は“How Can You Just Sit There?”というタイトルの予定だったそうです。映画のタイトルに合わせて変えたんですね。

 スタントマンのコルト・シーバース(ライアン・ゴズリング)は撮影中に大怪我を負い一線を退いていたが、元カノのジョディ・モレノ(エミリー・ブラント)が初監督を務める作品でカムバックする。ジョディに未練のあるコルトは彼女の気を引こうとスタントに奮闘するが、主役俳優トム・ライダー(アーロン・テイラー=ジョンソン)が突然姿を消す。ジョディとの復縁とスタントマンとしてのキャリアの復活を企むコルトはトムの行方を追うことになるが、予想外の事件に巻き込まれる。

 監督は「ブレット・トレイン」(2022年)のデヴィッド・リーチ。話は新味に欠けるものの悪くありませんし、アクションシーンも良いんですが、演出が大味。「ブレット・トレイン」は緩さも魅力でしたが、この作品にはタイトさが必要です。
IMDb6.9、メタスコア73点、ロッテントマト82%。
▼観客25人ぐらい(公開初日の午後)2時間7分。

「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」

 双子姉妹の初恋を双子の姉妹監督(ワンウェーウ・ホンウィワットとウェーウワン・ホンウィワット)が描いたタイ映画。主演のティティヤー・シラボーンシンは双子ではありません。

 2000年問題やノストラダムスの大予言が話題になる1999年が舞台。なんでもシェアしてきた高校生の双子姉妹ユーとミーの前にハンサムなマーク(アントニー・ブィサレー)が現れる。マークは家庭の事情で高校をやめ、田舎のナコーンパノムに帰るが、ユーとミーも離婚寸前の母親の実家に帰り、そこでマークと再会する。ユーとミーはマークとの仲を深めていくが、シェアができないことで2人の関係に影響を及ぼしていく。

 途中まで悪くないなと思っていましたが、どうも終盤が長く感じます。そこである事件が起きるんですが、間延びした感じを解消するには至っていません。1時間半程度にコンパクトにまとめたいところでした。
▼観客7人(公開3日目の午後)2時間2分。

「お母さんが一緒」

 ペヤンヌマキ作の同名舞台劇を「恋人たち」(2015年)の橋口亮輔が脚色・監督した作品。母親を温泉に連れてきた三姉妹(江口のりこ、内田慈、古川琴音)の確執を描き、いかにも元が舞台劇といった感じの作品に仕上がっています。

 一緒に温泉に来た母親が一切画面に登場しない設定も含めて、三姉妹それぞれの個性と確執は面白いんですが、あまりうまさは感じませんでした。
▼観客7人(公開5日目の午後)1時間46分。