2024/10/20(日)「ぼくのお日さま」ほか(10月第3週のレビュー)
しかも、販売サイトになかなかつながりません。つながった時には既に完売だったのが1本ありました。コンペティションに出品されている中国映画「チャオ・イェンの思い」で、僕は知りませんでしたが、主演女優のチャオ・リーインが人気なんだそうです。他の中国映画も人気で、日本在住の中国人が多く買ってるんじゃないでしょうか。
チケット販売サイトはパソコンよりもスマホの方がつながりやすく感じました。個人的に大本命の3DCGアニメ「野生の島のロズ」と吉田大八監督の「敵」(筒井康隆原作)が取れたので良かったです。
「ぼくのお日さま」
パンフレットに登場人物の自己紹介文があり、荒川(池松壮亮)の紹介に「1969年2月27日生まれの31才です」とあって、えっと思いました。この映画、2000年の話だったのか。だから荒川の車はボルボ240エステートだったのか…。Wikipediaによると、ボルボ240は1974年から1993年まで生産された車。荒川はクラシックな車に乗ってるなあと思ったんですが、時代が2000年ならまだ普通に走っていたでしょう。ドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」で主人公一家が乗っていたのもこの車でした(NHKなのでドラマの中ではボルド。実際の岸田家はもっと新しいボルボだったようです)
雪が降り始めてからとけるまでの、つまり一冬のかわいくて苦い恋の物語。商業映画デビューの奥山大史監督は前作「僕はイエス様が嫌い」(2019年)と同じスタンダードサイズの画面で淡い恋心を綴っています。
主人公のタクヤ(越山敬達)は少し吃音がある12歳。ある日、ドビュッシーの「月の光」に合わせてフィギュアスケートを練習する少女さくら(中西希亜良)の姿に心を奪われる。元フィギュアスケート選手でさくらのコーチをしている荒川(池松壮亮)はホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て何度も転ぶタクヤを見つける。荒川はスケート靴をタクヤに貸し、練習につきあう。そしてタクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始める。
タクヤは1歳年上のさくらが好きで、さくらは荒川に恋していて、荒川は五十嵐(若葉竜也)と同棲しているという関係。アイスダンス大会への練習は順調だったんですが、ふとしたことで、さくらの荒川への思いは壊れ、アイスダンスの練習も終わってしまいます。奥山監督は吃音の少年を歌ったハンバート ハンバートの「ぼくのお日さま」をモチーフに物語を作っていったそうです。
良い話ですが、おじさんには少し幼すぎるかなあ。さくらのLGBTQへの無理解な発言がそのままになっているのも少し気になりました。池松壮亮は氷の上に立ったこともなかったそうですが、半年間の練習でコーチ役として不自然ではない滑りを見せています。さすがです。
▼観客9人(公開初日の午後)1時間30分。
「破墓 パミョ」
冒頭、飛行機の中で客室乗務員から日本語で話しかけられたファリム(キム・ゴウン)が「日本人じゃありません」と流ちょうな日本語で返すシーンがあります。これはクライマックス、日本語でしゃべる必要のある場面への伏線。日本の化け物が出てくるからです。ファリムは韓国シャーマニズムの代表的存在である巫堂(ムーダン)で、風水師のサンドク(チェ・ミンシク)、喪儀師ヨングン(ユ・ヘジン)ファリムの弟子の巫堂ボンギル(イ・ドヒョン)とともに霊的な事件の解決に当たっているという設定。代々跡継ぎが謎の病気にかかっている家族から破格の報酬で依頼を受けたファリムとボンギルは原因が先祖の墓にあると気付く。不吉な山の上にある墓を暴くため、サンドクとヨングンも合流し、4人はお祓いと改葬を同時に行う。墓を掘り返していくうちに不可解な出来事に巻き込まれる。
棺の蓋を開けたために、霊魂が飛び出し、なんとかそれを退治するわけですが、墓の下にはもう一つの巨大な棺が埋まっていた、という展開。土着宗教絡みの話が「哭声 コクソン」(2016年、ナ・ホンジン監督)、シャーマン姉妹が出てくる点で「来る」(2018年、中島哲也監督)を思い起こさせました。この4人のチーム、なかなか良くて、シリーズ化してもいいんじゃないかなと思いました。映画はクライマックスが少し長い(この長さならもう一つ要素がほしい)のが難点ですが、僕は好きなタイプの映画です。
チャン・ジェヒョン監督は「プリースト 悪魔を葬る者」(2015年)などオカルティックな題材が好きなようで、前作「サバハ」(2019年)はNetflixで配信されています。
IMDb6.9、メタスコア80点、ロッテントマト93%。
▼観客11人(公開初日の午前)2時間14分。
「ポライト・ソサエティ」
英国ワーキングタイトル製作の青春アクション。という内容は事前には知らず、インドかどこかの女性差別を盛り込んだ話と思ってました。監督のニダ・マンズールはパキスタン系イギリス人なので、主人公の一家もパキスタン系なのでしょう。スタントウーマンを目指す女子高生リア・カーン(プリヤ・カンサラ)はカンフーの修行に励んでいるが、学校では変わり者扱い。親からも堅実な仕事に就くようにと説教される。リアの唯一の理解者である姉リーナ(リトゥ・アリヤ)がある日、富豪の息子でプレイボーイのサリム(アクシャイ・カンナ)と恋に落ち、結婚することに。リアは彼の一族に不審な点を感じ、調べると、結婚の裏にはとんでもない陰謀が隠されていた。
その陰謀というのがSFチックでリアリティーに欠けます。プリヤ・カンサラのアクションは悪くありませんが、ハードなものではなく、全体的に高校生向けを意識した作りと思えました。なぜか浅川マキの「ちっちゃな時から」(1970年)が流れます。
IMDb6.7、メタスコア75点、ロッテントマト91%。
▼観客6人(公開14日目の午後)1時間44分。
「若き見知らぬ者たち」
なんだこれ、と思うようなストーリー展開で、唖然としました。傷害の3人放置、事件を隠蔽した警官放置…。それでいったい何が言いたいのか判然としません。社会への怒り? 警察への怒り? 不幸な主人公への憐憫? この焦点ボケボケの脚本では磯村勇斗や岸井ゆきのや染谷将太や霧島かれんや滝藤賢一がいくら熱演しても映画が成功することはあり得ません。プロデューサーは脚本にノーと言うべきでした。風間彩人(磯村勇斗)は死んだ父(豊原功補)の借金返済の傍ら、家の内外で迷惑な行動を繰り返す病気の母(霧島れいか)の面倒を見ている。昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働く。彩人の弟・壮平(福山翔大)も借金返済と介護を担いながら総合格闘技の選手として練習に打ち込んでいる。彩人には恋人の日向(岸井ゆきの)がいるが、結婚への展望は開けない。親友の大和(染谷将太)の結婚を祝う夜、彩人を思いもよらない暴力が襲う。
脚本・監督は快作「佐々木、イン、マイマイン」(2020年)の内山拓也。本作は内山監督の知人に起きた事件を基にしているそうです。予告編と映画のコピー「何が彼を殺したのか」でネタを割ってますが、主人公の理不尽な死に焦点を絞って脚本化した方が良かったでしょう。その後に延々と続く弟の格闘技シーンは不要です。同じ画面の中で回想に移る手法など映画の技法に凝る前に、脚本の完成度を高めるのが先でした。
▼観客4人(公開5日目の午後)1時間59分。