2011/05/29(日)「無法松の一生」

 所々で激しく胸を揺さぶられる。日本人の感性にぴったりの作品と言うほかない。陸軍大尉の未亡人(高峰秀子)とその息子を一途に支え続ける車引きの松五郎(三船敏郎)のあまりにも有名な話。松五郎は献身的に尽くすが、身分の違いをわきまえて、未亡人への慕情を表に出すことはない。それがついに押さえきれなくなったクライマックス、松五郎は「俺の心は汚い。奥さんにすまん」と絞り出すように言う。

 稲垣浩監督は1943年に阪東妻三郎主演で映画化したが、軍の検閲によってカットされ、不完全なまま上映せざるを得なかった。15年後にリメイクしたこの作品はベネチア映画祭金獅子賞を受賞した。日本的な話だが、国境を越えて共感を呼ぶ映画なのだなと思う。キネ旬ベストテン7位。