2011/05/29(日)「冷たい熱帯魚」
埼玉の愛犬家連続殺人事件をモチーフにした園子温監督作品。愛犬家連続殺人? ああ、犯人が逮捕前からテレビでよく流されていたあの事件か、と思ったが、内容は全然覚えていない。1995年に発覚した事件で阪神大震災とオウム真理教事件のために目立った報道がされなかったかららしい。中身はとんでもない事件である。
犯人は毒物で殺した後、遺体を切断し、骨と肉にさばいて骨は焼却、肉は数センチ四方に切り刻んだ上で川に捨てる。なぜ、肉と骨を切り離すかと言えば、肉は焼くと臭いが発生するからだそうだ。僕は刃物で刺されたり、切断されたりする場面を見るのは苦手なのだが、この映画の場合、切り刻むのは遺体だし、手慣れた作業として描かれるので不快感はあまりなかった。
熱帯魚店を経営する村田(でんでん)は主人公の社本(吹越満)の前で最初の殺人を犯した後、「これまでに58人やってる」と豪語する。映画で描かれる殺人(3人)は実際の事件(立件されたのは4人の殺人)をほぼなぞった展開だ。映画は事件に巻き込まれる社本の視点で描かれる。この社本も実際の事件で共犯者となった男がモデル。園子温の関心は気弱な男だった主人公の変化にあるようだが、ここはやはり犯人像に迫って欲しいところだ。事件の経過は分かるが、なぜこういう人物ができあがったのかの部分が詳細ではないのでもどかしい思いが残る。映画は共犯者が書いた著書を元にしているようだ。こういう映画には追加取材が不可欠なのだが、やっていないのだろう。だからジャーナリスティックな視点が皆無の映画になってしまっている。
でんでんは実際の犯人とよくにた風貌のためのキャスティングだろう。やや一本調子の演技なのが惜しい。その妻役黒沢あすかと主人公の妻役神楽坂恵が色っぽくて良い。こういう映画だと、エロスとタナトスを持ち出しての批評があるだろうが、当たり前すぎて面白くないな。