2009/09/11(金)「ちゃんと伝える」

 「史郎君、君が癌だ」。主人公の北史郎(AKIRA)は癌の父親(奥田瑛二)が入院した病院の医師からそう告知される。父親より重く、父親より先に死ぬかもしれない。予告編でも流れたこの場面からどう展開するかという部分に興味があった。

 タイトルの「ちゃんと伝える」が出てくるまでに20分以上あるこの映画、タイトル前の部分で既に主人公は自分が癌であることを知っていることが後で分かる。園子音監督は時間を前後させて、物語を語っていく。しかし、どうも今ひとつ、主人公の切実さがちゃんと伝わってこないきらいがある。父親と息子の話の深め方が足りないと思う。描写の仕方に破綻はないが、印象としては平板なものがつきまとい、フツーの映画というややネガティブな結論になってしまう。

 主人公は父親が元気になったら2人で釣りに行くことを約束する。それは結局、かなえられない。そこで主人公が行う奇異な行動は父親との約束を果たすためではなく、恐らく自分のため、父親との思い出を何か形にして残しておきたかったためだろう。サッカー部のコーチで厳しかった父親と主人公はこれまで必ずしも仲の良い親子とは言えなかった。それを取り戻すかのように主人公は入院した父親のもとに毎日通うようになる。一緒に釣りに行くことは父親の希望であると同時に主人公の強い希望でもある。自分が癌にかかったことが分かった後ではなおさらだ。

 というようなことは分かるのだけれど、やや説得力を欠く。恋人(伊藤歩)とのエピソードを抑え、父と息子に限った方が話の深みは出たのではないかと思う。出演者たちは悪くない。脚本の段階で、さらに一工夫欲しいところだった。