2021/10/13(水)9月後半に見た映画

「サマーフィルムにのって」

「サマーフィルムにのって」パンフレット
 時代劇オタクの女子高生ハダシ(伊藤万理華)が仲間と一緒に映画を撮ろうとする話。ハダシは映画部に所属しているが、部で年1本作る映画に自分の脚本「武士の青春」は採用されず、ラブコメの脚本が採用されて意気消沈。自分の脚本の主役にピッタリの凛太郎(金子大地)と出会ったことから、友人のビート板(河合優実)、ブルーハワイ(祷キララ)らとともに独自に時代劇映画の撮影を始める。しかし、凛太郎にはある秘密があった。

 ビート板はSFファンで筒井康隆「時をかける少女」やハインライン「夏への扉」の文庫本を読んでいて、この映画もタイムトラベルの要素を含んでいる。ただ、SF方面への発展はほぼない。映画作りとほのかなラブストーリーを組み合わせた青春映画で、元乃木坂46の伊藤万理華は頑張っているが、脚本の弱さをカバーするには至っていない。

 マニアックではないほどほどの脚本に、ほどほどの演出をした、ほどほどの映画というのが率直な感想。同じく女子高生を主人公にした横浜聡子「いとみち」の完成度にはとても及ばないが、映画愛や共同作業の連帯感は十分に表現されていて、高校生に受けるのは「いとみち」よりこっちの方かもしれない。

 監督は「青葉家のテーブル」、テレビドラマ「お耳に合いましたら。」(これも伊藤万理華主演)などの松本壮史。

「マスカレード・ナイト」

 「マスカレード・ホテル」(2019年)の続編。ホテル・コルテシア東京で大晦日のパーティーに殺人犯が現れるとの密告状が届き、警視庁捜査一課の刑事・新田浩介(木村拓哉)が今はコンシェルジェとなったホテルマンの山岸尚美(長澤まさみ)と再び組んで潜入捜査するというミステリー。

 悪くはないが、際立った部分もないフツーの出来。犯人の間抜けなところがトリック破綻の原因となっているのはどうかなと思う。朝ドラ「おかえりモネ」で「理想の上司」「頼れる上司」「かっこいい上司」として大きく株を上げた高岡早紀の扱いの小ささは少し残念。

 小日向文世と長澤まさみが同じ画面に出てくると、「コンフィデンスマンJP」のリチャードとダー子に見えてしまう。監督は前作と同じ鈴木雅之。

「MINAMATA ミナマタ」

「MINAMATA ミナマタ」パンフレット
 水俣病を描くというより、写真家ユージン・スミスを描いた力作だと思う。50年前の話なので熊本には当時の風景がないこともあって撮影は主にセルビアとモンテネグロで行われたそうだ。明らかに日本の風景とは異なる場面があったり、子役が日本人には見えない場面もあったりするが、大きな障害にはなっていない。

 プロデューサーも兼ねたジョニー・デップの役作りは「パイレーツ・オブ・カリビアン」などと大きくは変わらない。それが逆にアルコール依存で弱い面も持つユージンのキャラクターに厚みを持たせている。抗議運動のリーダーを演じる真田広之は米国生活が長いのでもちろだが、チッソの工場長役・國村隼と美波の英語もうまくてびっくり。この英語力があるから國村隼は東京舞台のアクション映画「ケイト」(Netflix)にも浅野忠信とともに出演しているのだろう。

 ユージン・スミスが大けがをしたのは「入浴する智子と母」を撮影した後だったのに映画では前になっているなど事実と異なる部分もあるようだが、日本の一地方の公害を世界に知らしめた出来事を堅苦しくなく、感動的にまとめたアンドリュー・レヴィタス監督の手腕は大したものだと思う。

「空白」

「空白」パンフレット
 いつもは笑いがあるのが当たり前の吉田恵輔監督が今回は笑いを封じたと言っているが、僕は特に寺島しのぶにおかしさを感じた。笑いはその人のキャラクターと密接だから、キャラを深く描くことが必要だが、寺島しのぶはかなり年下の店長を密かに好きなおばさんの役柄が実にぴったりでおかしかった。店長を慰めて抱きしめているうちに思わずキスしてしまうところなんか、「あるある」と思えた。

 映画は恣意的なマスコミ報道とネットの中傷を描きながら、誰もが被害者にも加害者にもなり得る今の社会を浮き彫りにしているが、本当のテーマは人の再起にある。突然起こった絶望的な出来事から人はどう立ち直っていくのかを描いているのがこの映画の最大の美点だろう。

 出てくる役者はすべてよくて、古田新太の下で働き、深く理解している藤原季節や少女をはねた車を運転していた女性の母親の片岡礼子、少女の母親の田畑智子、担任の先生役趣里まで良かった。

 古田新太の娘役の伊藤蒼は消え入りそうで存在感のない女の子で、ああいう悲劇的な死を遂げるのにぴったりだったが、NHK朝ドラ「おかえりモネ」ではしっかりした女子中学生を演じていた。

「クーリエ:最高機密の運び屋」

「クーリエ:最高機密の運び屋」パンフレット
 1960年代の冷戦、特にキューバ危機を背景にしたスパイの実話を基にした物語。ほとんど内容を知らずに見たので終盤の展開が意外だった。ここで主演のベネディクト・カンバーバッチはげっそり痩せた姿を見せ、悲運なソ連側スパイとの友情にも胸が熱くなる。十分に水準をクリアした出来だと思う。

 主人公のグレヴィル・ウィンは自伝も書いているが、自分を美化して嘘がまざっているという批判があるそうだ。そのため脚本のトム・オコナーはさまざまな資料に当たって脚本化したとのこと。だからこれは実話ではなく、実際の事件を基にしたフィクションと見た方が良いだろう。

 ドミニク・クック監督の演出は同じ時代のスパイを描いたスピルバーグ「ブリッジ・オブ・スパイ」という傑作があるので比較すると、分が悪くなる。アメリカでの評価がそれほど良くないのはそうした諸々の部分が影響しているのかもしれない。

 主演のカンバーバッチは3カ月で10キロ痩せたそうだ。10キロ減量にしては痩せすぎじゃないかと思えるが、減量すると極端に頬がこける人もいるし、一部CG処理とメーキャップの効果もあるのだろう。主人公にクーリエ(運び屋)となることを依頼するCIA職員役のレイチェル・ブロズナハンはamazonオリジナルドラマの「マーベラス・ミセス・メイゼル」の主演女優。コメディドラマとは打って変わった役柄だが、何でもできる女優なのだ。

2021/09/19(日)9月前半に見た映画

「モンタナの目撃者」

 テイラー・シェリダン監督なので見た。見て正解、個人的に大好物ジャンルの作品だった。

 森林消防隊員の主人公ハンナ(アンジェリーナ・ジョリー)が森の中で少年コナーと出会う。少年の父親は汚職事件を捜査する検事に協力していた会計士で、2人組の暗殺者に追われ、少年の目の前で殺された。ハンナは少年とともに街を目指すが、暗殺者たちは森に火を付け、2人に迫ってくる、というストーリー。

 私立探偵小説などの作家マイクル・コリータの原作「Those Who Wish Me Dead」(2014年、未訳)をコリータ自身とシェリダン、「白鯨との闘い」などのチャールズ・リーヴィットが脚色。

 ハンナは森林火災の際に風を読み違え、少年3人を助けられなかった過去がある、というのがこうした作品のお約束的設定だ。保安官の妊娠5カ月の妻(メディナ・センゴア)が暗殺者に襲われるが、意外で痛快な展開になる。シェリダンは脚本を担当した「ボーダーライン」、監督作「ウインド・リバー」でも女性を主人公にしていから、強い女性キャラクターが好きなのだろう。

 アメリカでの評価はIMDb6.0、メタスコア59、ロッテントマト62%と低いが、自分を含めて冒険小説などの愛好者にはアピールする内容だと思う。

「ももいろそらを カラー版」

 小林啓一監督の長編第1作で2011年に撮影し、2013年1月にモノクロ版が公開された。カラーで撮ったのにモノクロ処理したのは「未来から今を見つめるというコンセプトから」だったとのこと。主演の池田愛は撮影中、モノクロになるとは「1ミリも思っていなかった」そうだ。ピンク色の煙をパートカラーにするためのモノクロ化だったのではないかと想像したが、そんな「天国と地獄」の二番煎じ、三番煎じの意図はなく、全編モノクロだったわけだ。

 カラー版の公開はコロナ禍で暇ができた監督が自宅で映像資料の整理をしていた際にカラー素材を見つけたのがきっかけ。10年前の作品なので、LGBTQ的にちょっとまずいと思えるセリフがあったり、不要と思えるエピソードがあったりする。脚本もそんなにうまくなく、前半は冗長で自主映画レベル。後半、少し盛り返した感じ。

 池田愛は活発で男まさりな女子高生を演じて良いが、この映画の後、学業に専念するために芸能活動を休止。その後、復帰したそうだが、目立った活動はしてませんね。カラー版の公開記念で舞台あいさつをした際の動画がYouTubeにアップされている。

「いとみち」

「いとみち」パンフレット
 「ベイビーわるきゅーれ」と同じくメイドカフェが出てくるが、相当にウエルメイドに作られた青春映画。横浜聡子監督の「俳優 亀岡拓次」以来5年ぶりの作品で、故郷の青森を舞台にしている。エンドクレジットを見ると、地元の協力も多く得たようで、ご当地映画の趣もあり、津軽弁の響きがとても心地良い。

 主人公いとの祖母はいとが出かける時、「か、け」と言って、干し餅を渡す。「か、け」とはパンフレットによると、「ほら、食え」という意味だ。

 津軽弁のなまりが強い主人公を演じる駒井蓮は津軽三味線の演奏があまりに見事なので、これは三味線のうまい人を連れてきたんだなと思ったら、1年間練習したのだそう。この映画も主役の魅力に負うところが大きい作品になっている。

 いとの父親役を演じるのは「子供はわかってあげない」に続いて豊川悦司。原作では父親も青森出身の設定だそうだが、東京出身に変えてある。豊川悦司まで津軽弁だったら、意味の取りにくい部分が多くなったかもしれない。

「シャン・チー テン・リングスの伝説」

「シャン・チー テン・リングスの伝説」パンフレット
 マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の1本で初めてアジア系のヒーローを主人公にした作品。主人公のシャン・チーを演じるのは主にテレビドラマに出演してきたシム・リウ。キレのあるアクションを披露していて、主役として不足はない。主人公の父親役にトニー・レオン、叔母役にミシェル・ヨーのベテランをそろえたほか、妹役は映画初出演のメンガー・チャン(アクションが素晴らしい)、同僚役に「フェアウェル」のオークワフィナ(コメディ演技が◎)とキャストはほとんどアジア系となっている。

 作品自体、アジアンテイストが横溢し、クライマックスには西洋のドラゴンではなく、東洋の竜が登場する。ただし、VFX満載のこのクライマックス、それまでのアクションの快調さに比べると、今一つ目新しさがないのが残念。監督のデスティン・ダニエル・クレットンは「ショートターム」「黒い司法 0%からの奇跡」と傑作を放っているが、こうしたアクションの演出は初めて(キャプテン・マーベル=ブリー・ラーソンが顔を見せるのは、この2作に出演している縁もあるのだろう)。

 11月公開予定の「エターナルズ」のクロエ・ジャオもそうだが、マーベルは監督を選ぶ際に題材に慣れていることよりも演出の力を重視しているようだ。

「RUN ラン」

「RUN ラン」パンフレット
 「search サーチ」のアニーシュ・チャガンティ監督によるスリラーの佳作。先天性の病気で車椅子生活を送るクロエは母親に不信感を抱き始める。人は服用不可の動物用の薬を母が自分に飲ませていたのだ。体が不自由なのは先天性のものではなく、薬のためらしい。主人公は母の隔離から何とか逃れようとする、というストーリー。

 クロエ役をオーディションで抜擢された新人キーラ・アレンが、娘に歪んだ愛情を注ぐ母親を「オーシャンズ8」のサラ・ポールソンが演じている。

 母親の意図によく分からない部分が残るなどの瑕疵はあるが、チャガンティ監督のサスペンス演出は破綻がなく楽しめた。このパンフレットの表紙は劇中、主人公が飲まされるカプセル薬の色をデザインしてある。

「シュシュシュの娘」

「シュシュシュの娘」パンフレット
 コロナ禍で苦境にある全国のミニシアター救済を目的に入江悠監督が自主制作した。移民排斥問題と公文書改ざん問題を折り込んだエンタテインメント。市役所に勤務する鴉丸未宇(福田沙紀)は職場の先輩・間野幸次(井浦新)を自殺に追い込んだ“文書改ざん”の証拠を手に入れようとする。

 こうした現在の問題を取り上げるのは取り上げないよりは良いことだろうが、例えば、外国人労働者の現状を真正面から描いた「海辺の彼女たち」などに比べると、分が悪くなる。公文書改ざんといっても市役所の話なので、映画のスケール感も小さいものになる。

 「シュシュシュ」の意味は予告編でも伏せているので書かないが、主演の福田沙紀はタイトルロールにふさわしい動きを見せている。もっと映画に出ても良いのではないか。

「岬のマヨイガ」

 東日本大震災をモチーフにしたファンタジー小説をアニメ映画化。居場所を失った17歳のユイ(芦田愛菜)と8歳のひより(粟野咲莉)は、避難所で出会ったキワ(大竹しのぶ)に連れられ、岬にある古民家マヨイガ(迷い家)で共同生活を始める。原作は岩手出身の児童文学作家・柏葉幸子。監督は川面真也。

 マヨイガの描写は「となりのトトロ」を思わせる。シリアスな序盤に身構えていると、河童が出てきて、後半は「妖怪大戦争」的展開になる。妖怪は原作の持ち味らしいが、序盤のムードで押し切っても良かったのではないか。大竹しのぶは「漁港の肉子ちゃん」に続いての声の出演。この映画の方が自然な感じだった。

2021/09/06(月)8月後半に見た映画

「フリー・ガイ」

 ゲームのモブ(背景)キャラが自我に目覚めて、ゲーム消滅の危機を救うという話。なかなかSF的だが、いまいち説得力が足りない。ゲーム内の1キャラがAI化するのは無理筋だ。

 脚本はマット・リーバーマンとザック・ペン。ペンは「レディプレイヤー1」の脚本も書いていて、こうしたゲーム内の話には慣れているのだろう。ショーン・レヴィ監督の演出には相変わらず緩いところがあるが、気持ちの良いハッピーエンドに向かうのが好評の理由かなと思う。

 なぜかパンフレットもグッズも販売なし。版権の関係だろうか?

「プロミシング・ヤング・ウーマン」

 主人公のキャシー(キャリー・マリガン)はかつて医大生だったが、ある事件で大学を中退。今はコーヒーショップで働いていて、夜ごと、バーで酔ったふりをして男にお持ち帰りされ、男たちに裁きを下していた、という出だし。過去に何があったのかは徐々に明らかになる。
「プロミシング・ヤング・ウーマン」パンフレット
 事件をただ傍観していることは共犯と同じというメッセージをこめつつ、エンタメとして作っているのが優れたところだろう。監督・脚本のエメラルド・フェネルはテレビドラマ「キリング・イヴ」シーズン2で製作総指揮を務めていたそうだ。

 最近、「キリング・イヴ」関連でもう一人いたなと思って探したら、「フリー・ガイ」でヒロインを演じたジョディー・カマーだった。

 キャリー・マリガンに注目したのは「17歳の肖像」(2009年)の頃。当時、24歳で17歳の役を演じていた。今回は36歳で30歳の役(撮影時は34~35歳かも)だが、ケバい化粧をしていると、ぱっと見、40代に見えてしまう。でも演技のレベルは高いので、アカデミー主演女優賞ノミネートも納得できる。

「ドライブ・マイ・カー」

「ドライブ・マイ・カー」パンフレット
 村上春樹の短編集「女のいない男たち」から「ドライブ・マイ・カー」と「シェエラザード」「木野」の3作を組み合わせて脚色している。主人公の車は同じサーブ900でも原作では黄色のオープンカーですが、映画では15年乗りの赤いハッチバック。車が違うように話も原作とは大きく違う。

 原作は主人公が緑内障になったため東京で運転手を頼むだけで広島へは行かない。映画は広島での演劇祭がメインになっていて、そこで上演する演劇の本読みが大きなパートを占めている。濱口監督は映画を撮影する際には普段からこういうステップを踏むそうだ。脚本の理解を深めることで俳優の演技を引き出す効果があるらしく、この映画でも俳優たちの演技が充実している。

 映画が約3時間の上映時間にもかかわらず、飽きないのはそうした面があるからだろう。カンヌでの受賞にふさわしく純文学風の仕上がりだし、クライマックスの展開は現実的ではないと思えたが、高評価も納得できる作品だっだ。

「子供はわかってあげない」

「子供はわかってあげない」パンフレット
 田島列島の原作コミックを沖田修一監督が映画化。ゆったりまったりした展開の青春映画で、高校2年の主人公美波(上白石萌歌)が幼い頃に分かれた父親(豊川悦司)と夏休みに再会する話。

 クライマックス前の母親(斉藤由貴)との会話のシーンにジンと来た。撮影は2年前だったそうで、上白石萌歌の顔はまん丸。「ドラゴン桜」で一般的な人気を得た細田佳央太も好演している。

「孤狼の血 LEVEL2」

「孤狼の血 LEVEL2」パンフレット
 上林(鈴木亮平)はサイコパスだと思う。武闘派ヤクザじゃなくて、「キャラクター」のFukaseに近く、Fukaseのガタイをでかくして、凶暴にすると上林になる。

 普通の武闘派ヤクザ、例えば「仁義なき戦い 広島死闘編」で千葉真一が演じた大友勝利などは短気で乱暴ではあるけれど、異常者ではない。上林が異常なのは食欲や性欲、金銭欲、物欲などが感じられず、人への暴力と支配欲しかないように見えるからだ。毎回毎回、殺す相手の両目を両親指でつぶすなど異常者のやることだろう。最初につぶされるピアノ講師が美人だなと思ったら、筧美和子だった。よくこんな役を引き受けたなと思う。

 白石和彌監督は上林を敵も味方も破壊するゴジラに例えていたそうだが、それはゴジラに失礼というもので、ゴジラは破壊王ではあるが、異常ではない。「なんならぁ」とか「こんなは…」とかの広島弁を聞くと、「仁義なき戦い」を思い出すし、実録風の演出も少しあるが、これはヤクザ映画じゃなくホラー映画として見るのが正解だ。

「オールド」

「オールド」パンフレット
 リゾート地のビーチから出られなくなった3家族を描くサスペンス。このビーチ、人間の成長・老化が早く、30分で1年分の老化をしてしまう。1日だと48年の計算。人間だけでなく、生物全体の老化も早いはずだが、周囲は岩場と砂浜だけで植物はなく、海に魚もいない。3家族は逃げようとするが、海岸を出ようとすると気を失ってしまう。

 この場所がなぜこうであるのかの説明はあっさりしたもので説得力もないが、シャマランの狙いはなぜ3家族はここに案内されたのか、その目的は何かを描くことだったようだ。だから、これSFじゃなくてサスペンス。そっちの方の出来は悪くないと思った。

 出ようとして気を失うなら、入ろうとしても同じはずとか、ツッコミどころは多数あり、IMDbの評価は5.9と低い。シャマラン映画の好きな人はどうぞ。

「鳩の撃退法」

 佐藤正午の同名小説をタカハタ秀太監督が映画化。原作は文庫上下2冊で1000ページ以上ある。それを約2時間の映画にまとめるのは難しかったのか、筋を追うのにいっぱいいっぱいという感じがありあり。これをテンポ良く描いたと受け取る人もいるようで、日経夕刊では★4個を付けてた。

 Yahoo!のレビューで指摘している人がいるが、予告編では、書いたことが現実になるかのような紹介になっていた。本編はそうではなく、作家(藤原竜也)が現実の話をそのまま書いたんじゃないかと心配して編集者(土屋太鳳)が調べるという展開だった。

 「沼本」と書いて「ぬもと」と読むカフェの店員を演じるのは「孤狼の血 LEVEL2」では大根とも評された西野七瀬(個人的には前作の真木よう子に遜色ない演技と思う)。今回は年齢的に近い役柄なので、無理のない演技だった。どこか蓮っ葉なイメージが似合ってきた佐津川愛美も含めて女優陣は悪くなかった。

「白頭山大噴火」

 最初の地震のシーンは「すげえ」と思ったが、あとは新鮮味に乏しいアクション。日本でもアメリカでもこれはディザスター映画になる題材だと思うが、それをアクション映画としてまとめるのがいかにも韓国映画という感じ。

 最初の噴火が起こった後、最大規模の噴火を止めるため、地下のマグマだまりを爆破しようと韓国軍が作戦を展開。この作戦、600キロトンの爆破が必要なので北朝鮮の核兵器からウランを盗み、白頭山の炭鉱の地下坑道で原爆を爆発させるという乱暴なもの。南北関係に気を遣ったためか、北朝鮮軍との銃撃戦は最小限で、主な敵は中国と米軍になるというのも著しく説得力を欠く。

 ほとんどトンデモ映画の設定だが、それに目をつぶってアクションだけを眺めてれば、我慢できるかもしれない。IMDbの評価は6.2、ロッテントマト70%。アメリカでは限定公開だったためか、メタクリティックに評価はない。

2021/08/19(木)8月前半に見た映画

 8月前半(15日まで)に見た映画は16本。劇場では6本だった。

「アジアの天使」

 全編監督ロケをした石井裕也監督作品。妻を失った剛(池松壮亮)は8歳の息子とともに兄(オダギリジョー)がいる韓国へ行く。兄は怪しい化粧品販売の仕事をしていた。剛たちは家族関係に悩むタレントのソル(チェ・ヒソ)の家族とソウルで出会い、一緒に旅をすることになる。

 日本、韓国とも役者は全員良いが、話が今一つ盛り上がらない。両家族の関係性が良くも悪くもなく、不透明なままなのだ。日韓の交流に安易な結論を出すのは難しいので仕方ないのかもしれない。

「キネマの神様」

 原田マハの原作とはまるで異なる話になっている。映画好きの主人公ゴウがギャンブル好きで借金まみれであるなど原作の登場人物に沿ったキャラクターではあるが、原作のゴウに映画の助監督を務めた過去はない。

 原作は「父親のゴウが雑誌『映友』に歩の文章を投稿したのをきっかけに、娘の歩は編集部に採用され、ひょんなことから父の映画ブログ『キネマの神様』をスタートさせることに。“映画の神様”が壊れかけた家族を救う、切なくも心温まる奇跡の物語」。無名の個人のブログで月の広告収入1000万円とか、ありえない展開があって、原作にはあまり感心できなかった。ゴウがブログに書いている内容も「フィールド・オブ・ドリームス」の感想などいたって普通で特別に話題になるとも思えないものだ。

 こうした物語では映画に向かないため、山田監督がまったく違う内容にしたのも分かるが、それならば、この小説を原作にする必要はなかった。要するに「キネマの神様」というタイトルを使いたかっただけなのではないか。

 主演の沢田研二は志村けんに寄せた演技が所々にあってマイナスの印象。「東村山音頭」を歌うシーンなど不要だと思う。そもそも沢田研二、映画に出るなら、もう少し体を絞った方が良かっただろう。原作のゴウさんも志村けんもこんなに太ってはいない。

 良かったのは過去のパートで、永野芽郁が良いのはもちろんだが、意外なことに美人女優を演じる北川景子がさまになっていた。北川景子、2月に公開された「ファーストラヴ」ではまったくラブシーンがダメダメな演技だったが、こういうそこにいるだけの美人という役柄にはぴったりだ。

 コロナ禍の描写を取り入れたのは良いが、映画の出来としてはいたって普通のレベル。

「ワイルド・スピード ジェット・ブレイク」

 2001年の第1作から数えてシリーズ9作目(スピンオフの「スーパーコンボ」を含めると10作目)は上映時間2時間23分。見る前は長すぎるのではと思ったが、アクションが切れ目なく続くので、そんなに長さは感じない。それでももう少し切り詰めた方が鋭い映画になったと思う。

 壊れた吊り橋のロープ1本を使ってクルマをジャンプさせたり、改造車で宇宙へ行ったりなど、大がかりなアクションは、おバカ映画の一歩手前という感じ。単なるカーアクションの枠を超えるアクションが展開されるようになったのは2011年の「MEGA MAX」ぐらいからだっと思うが、作品ごとにエスカレーションしている。

 3作目で死んだハン(サン・カン)が実は生きていたとして復活する。こういう「死んだはずだよ、お富さん」的展開になるのはレティ(ミシェル・ロドリゲス)に続いて2人目で、このシリーズ、なんでもありなので、もはや気にならない。むしろ、2013年に亡くなったポール・ウォーカーが演じたブライアンが画面にまったく登場しないのに、存在している設定なのが不自然。ウォーカーは観客にもスタッフにも愛された人だったにせよ、さすがに無理が目立ってきた。

 シリーズ開始から20年たち、出ている俳優陣の多くは年齢的に厳しくなった。シリーズは次の2作で完結するらしい。

「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」

「ザ・スーサイド・スクワッド」パンフレット
 原題は2016年の「Suicide Squad」に「The」を付けただけのタイトル。仕切り直しの決定版という意味だろう。悪を殲滅するために終身刑の悪人たちによる部隊を組織するという話だが、マーベルで「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を撮ったジェームズ・ガン監督がやりたい放題にやらせていただきました、という感じで作っている。マーベルは親会社がディズニーなのでグロい描写には規制があったのかもしれない。頭が切断されたり、吹っ飛んだり、DCはなんでもありだ。

 ジェームズ・ガンのユーモア感覚は絶妙で、ゲラゲラ笑いながら見ることになるが、怪獣映画のようなクライマックスからまともなヒーローものになる。その怪獣、「宇宙人東京に現わる」で岡本太郎がデザインしたヒトデ型一つ目の宇宙人パイラ人と同じなのが笑える。しかし、最新のVFXで動くこの怪獣、迫力があり、恐怖の存在として十分に機能している。

 ビリングのトップはハーレイ・クイン役のマーゴット・ロビー。当然という感じだが、ロビーは演技もしっかりできるのにこうした映画を見捨てないのはえらい。2016年版のハーレイはそのキュートさで一躍人気者になった。今回はキュートさは控えめで、強さが目立っている。このほか、キャラで目立つのはサメ男キング・シャークで、シルベスター・スタローンが声を演じていてこれまた絶妙に面白い。ネズミの群れを操るラットキャッチャー2(父親=タイカ・ワイティティの跡を継いだから2)を演じるダニエラ・メルキオールはポーランド出身で、これが初のアメリカ映画出演とのこと。

「少年の君」

「少年の君」パンフレット
 中国の苛烈な受験戦争を背景にしたいじめを巡る青春映画。第93回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされた(受賞は「アナザーラウンド」)。内容について東野圭吾のあれとあれだとか、岩井俊二の影響受けているとか、いろいろ言われているが、ともに不遇な環境にある若い男女が出会い、強く切実に惹かれ合うという展開は過去の青春映画に多数の前例がある。定番とも言えるプロットにもかかわらず、この映画が大きな成功を収めたのは主演のチョウ・ドンユイとイー・ヤンチェンシーの魅力によるところが大きいだろう。

 29歳なのに18歳の高校3年生チェン・ニェンを演じて不自然さがないドンユイも鮮烈だが、「俺は君を守る。君は世界を変えろ」と言うシャオベイ(ヤンチェンシー)が良い。かつてはこういう男子が普通(例えば、日活アクションとか「未来少年コナン」とか)だったのだが、日本では今や「あなたは死なないわ。私が守るから」と女の子(綾波レイ)から言われる始末だからなあ。

 後半のミステリー的展開は作劇として決してうまくはないものの、学歴偏重社会の否定につながるラストをもってくるための手段でもあるだろう。

 劇中、チョウ・ドンユイは坊主頭になる(これが「リリイ・シュシュのすべて」の伊藤歩を思わせる)。パンフレットによると、ドンユイの提案でスタッフ全員も同じく坊主頭になったとのこと。

 いじめっ子の美少女ウェイ・ライを演じるチョウ・イエはこの映画で一躍注目を集め、大作への出演が続いているという。なるほど、それも納得の美少女ぶりだ。

 映画の中で940万人(だったかな)とされる高考(全国統一大学入試)の受験者数は現在、1000万人を超えているそう。日本の大学入学共通テストの受験者は約53万人なので20倍近い数。大学受験の厳しさは日本をはるかに上回っているのだ。

2021/08/10(火)7月に見た映画

 遅くなりましたが、7月に劇場で見た映画のうち、ここで触れていない作品の感想をアップしておきます。シネマ1987のメーリングリストに流したものを「ですます」調から「である」調に変えただけですが。

 7月に見た映画は28本。内訳は映画館12本、Netflix6本、WOWOW3本、Hulu3本、amazonプライムビデオ3本、ディズニープラス1本。

「猿楽町で会いましょう」

「猿楽町で会いましょう」パンフレット
 公開初日、1回目の上映に行ったら、観客1人だった。未完成映画予告編大賞のグランプリを受賞した後に本編を撮影した作品。

 完成映画の方の予告編を見ると、渋谷区猿楽町を舞台にした若い男女の単純なラブストーリーのように思える。映画は3章構成で、フリーカメラマンの男(金子大地)が仕事で出会った読者モデルの田中ユカ(石川瑠華)に惹かれ、付き合い始めるというのが第1章。

 第2章からは映画とユカの第一印象を裏切るような展開を見せる。未完成映画の予告編(これにも石川瑠華が出ている)にはそうした部分も描かれている。YouTubeで完成映画の予告編を見ると、自動再生で次に未完成映画の予告編が再生されてしまうが、これはキャンセルして何も知らずに本編を見ることを勧めたい。

 石川瑠華、監督の児山隆ともこれが長編映画デビュー。どちらも頑張っていて、敢闘賞に値すると思った。

「ブラック・ウィドウ」

「ブラック・ウィドウ」パンフレット
 延期に延期を重ねてようやく公開されたか、という感じ。

 序盤を見て「007のようなスパイアクションだな」と思ったら、劇中で「007ムーンレイカー」を流す場面があり、ロジャー・ムーア時代の007を思わせる空中アクションがメインになっていた。世界的な悪の組織という敵の設定も含めて、製作者たちは明らかに007を意識して作っている。

 当時の007はアクションは素晴らしかったものの、エモーションには欠けていた。「ブラック・ウィドウ」にもそんなところがある。いくらでもエモーショナルに作れる題材なのに、それほどドラマティックな演出にはなっていない。しかし大きなスクリーンで見た方が良い作品であり、ディズニーが劇場公開にこだわったのも理解できる。

「茜色に焼かれる」

「茜色に焼かれる」パンフレット
 コロナ禍の苦しい生活を描くだけかと思ったら、希望を描いていた。

 主人公の田中良子(尾野真千子)は7年前に夫(オダギリジョー)を元高級官僚の老人が運転する車の事故で亡くし、加害者側が謝罪しなかったために賠償金の受け取りを拒否。中学生の息子純平(和田庵)を1人で育てるシングルマザーとなってスーパーの花屋コーナーと風俗店の掛け持ちで働いている。

 こんなことしてたら、コロナ禍じゃなくても苦しいと思えるのは良子が、夫と愛人との間に生まれた子どもへの養育費の仕送りと、義父が入っている施設への支払いも行っていること。希望は純平が全国でもトップクラスの優秀な成績であることが分かったほか、いじめを受けているにもかかわらず、素直に育っていること。風俗店の同僚のケイちゃん(片山友希)が「純平くんって、いい男だねえ」としみじみ言うほどで、純平には人間関係の希望、次代への希望みたいなものを感じさせる。

 一方で良子を解雇する花屋の店長とか、セックス目当ての同級生とか、ケイちゃんが同棲しているDV男とか、女性の不幸の原因の多くがコロナ禍よりもクズみたいな男にあることがよく分かる映画だ。

「東京リベンジャーズ」

「東京リベンジャーズ」パンフレット
 ヤンキーな予告編を見た段階ではスルーしようと思っていたが、キネ旬で好評だったのでアニメを見たら、なかなか面白い出来。見に行ったら、意外にも若い女性客が多かった。北村匠海や吉沢亮のファンなのだろう。

 クズみたいな人生を送っている主人公・花垣武道(北村匠海)がその発端となった10年前に戻り、人生を、そしてヤクザと半グレの抗争に巻き込まれて死んだ橘日向(今田美桜)を取り戻そうとする物語。主人公は過去に戻って殴られ蹴られてばかりだが、かつてそれに屈したことが今の情けない生活につながっているわけなので絶対に諦めない。それが映画の熱さにつながっている。

 「いつも急に来るんだね、君は」と言い、タケミチを信じ抜くヒナタを演じる今田美桜の最強のかわいさも必見。タイムリープを絡めた物語としては明らかに「夏への扉 キミのいる未来へ」よりよく出来ている。

「映画大好きポンポさん」

「映画大好きポンポさん」パンフレット
 作画からして「竜とそばかすの姫」に見劣りするが、内容は初歩的な映画ファンが喜びそうな感じに仕上がっていた。

 「泣かせ映画で感動させるより、おバカ映画で感動させる方がかっこいいでしょ」とか「人間の集中力はそんなに持たない。90分が限界」とか、プロデューサーのポンポさんが言ってることは極めてまとも(でも目新しくはない)。映画全体も好感の持てる作りになっているが、それ以上のものはなく、中高生向けと思えた。

 入場者プレゼントで映画の前日譚にあたる書き下ろしコミック(非売品、24ページ)がもらえた(僕がもらったのは前編)。

「シドニアの騎士 あいつむぐほし」

 2期にわたって放送されたテレビシリーズの完結編となる新作。「未知の生命体ガウナに地球を破壊され、かろうじて生き残った人類は巨大宇宙船シドニアで旅を続けていたが、100年ぶりにガウナが出現、再び滅亡の危機に襲われる」というストーリー。

 クライマックスの出撃シーンでテレビシリーズ第1期のオープニングテーマ「シドニア」が流れた時には「おおおおおおーっ」とテンションが爆上がりだった。

 これはテレビシリーズを見ていた人には共通するようで、YouTubeのこのMVのコメント欄には「鳥肌立った」「震えた」というコメントが並んでいる。

 メインのストーリーに絡めて逆「美女と野獣」のようなラブコメ設定があり、そこもきちんと完結している。CGをふんだんに使い、制作のポリゴン・ピクチュアズが技術の高さを示した1作になった。テレビシリーズは全話Netflixにある。

「イン・ザ・ハイツ」

「イン・ザ・ハイツ」パンフレット
 トニー賞4部門を受賞したブロードウェーミュージカルの映画化。マンハッタン北端にある移民の街ワシントン・ハイツを舞台に、通りを埋めた群舞や歌でヒスパニック系移民たちの今を描く。監督は「クレイジー・リッチ!」(2018年)のジョン・M・チュウ。

 移民の生活には経済的貧困や差別が影を落としていて、それらの問題をヒップホップで歌い上げる、いかにも現代のミュージカルになっている。フレッド・アステア「恋愛準決勝戦」(1951年、スタンリー・ドーネン監督)の有名なシーンをアップデートしたシーンがあったり、ミュージカルとしては水準を超えている。

 群舞も素晴らしいが、欲を言えば、圧倒的なソング&ダンスマン(ウーマン)のパフォーマンスが欲しかったところ。ヒスパニック系移民を描いたミュージカルは「ウエスト・サイド物語」(1961年)以来とのこと。

「ジャングル・クルーズ」

 ディズニーランドのアトラクションをモチーフにした作品。「不老不死の力を秘めた奇跡の花を追って、並外れた行動力を持つ博士リリーと船長フランクは、アマゾンの上流奥深くの“クリスタルの涙”へ向かう」というストーリーでエミリー・ブラントとドウェイン・ジョンソンが主演している。

 「レイダース」や「ロマンシング・ストーン」を思わせる展開だが、そうした傑作に比べて新鮮さは皆無で、映画のタッチとしては同じくアトラクションを映画化した「パイレーツ・オブ・カリビアン」に近い。ブラントもジョンソンも好きな俳優だが、溌剌さには欠けており、もっと若い俳優の方が良かったのでは、と思えた。監督は「トレイン・ミッション」のジャウム・コレット=セラ。